信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


いわゆる有病者の歯科治療

11. 炎症性腸疾患

2000.2.16 松澤

●定 義 

 潰瘍性大腸炎と Crohn 病は、若年者に好発し、緩解と増悪を繰り返し完全治癒が得られないのを特徴とし、びらんや潰瘍を形成する原因不明の非特異的炎症性腸疾患であるが、この2つの疾患を炎症性腸疾患と総称する。

●鑑別診断

 臨床像および発生部位は特徴的で鑑別診断は必ずしも困難ではない。
細菌学的、寄生虫学的検査により感染性大腸炎、特異的炎症性腸疾患を除外する。

潰瘍性大腸炎 発生部位は直腸から盲腸までの大腸のみ。炎症は粘膜および粘膜下層に限局し、直腸を中心とする上行性のび漫性・連続性の病変を特徴とする。

Crohn 病  病変は口腔から肛門までのすべての消化管において発生。炎症は粘膜のみならず腸管壁全層に波及し、非び漫性・非連続性。

●発生頻度

 本邦において潰瘍性大腸炎は人口10万人あたり30人、Crohn 病は9人認められる。潰瘍性大腸炎はもはやまれな疾患ではない。

●病 因     

 発生原因は未だ不明で、種々の仮説が提唱されているが、家族発症例が多く、最近の報告では遺伝子因子と環境因子が複雑に絡み合って病変が形成される可能性が示唆されている。

潰瘍性大腸炎 遺伝的素因:ヒト白血球抗原(HLA)B52 DR2 DRB1.103 DRB1.12と相関性が報告されている。免疫学的異常:T細胞成熟過程障害に基づく自己免疫異常が示唆されている。

Crohn 病  遺伝的素因:HLA 関連では DR4 DRw53 DQw3 が有意に多いとの報告。免疫学的異常:腸管局所での過剰免疫反応と単球機能異常の関与が示唆されている。環境因子:感染、食事、喫煙などが古くから提唱されている。

●症 状  

潰瘍性大腸炎 通常緩徐で慢性的に経過することが一般的であるが、急性電撃型のように急激な発熱と粘血便で発症することもある。下腹部痛、粘血便、血便、下痢、発熱が一般的にみられる症状。これらはストレス負荷時に増悪する傾向がある。

Crohn 病  通常緩徐であるが、最も頻回に見られる症状は左下腹部痛。全身倦怠、発熱、体重減少、貧血など膠原病様の症状を主訴とすることが多い。初発症状が痔瘻などのように肛門周囲病変のみであることも少なくない。

●診 断     

内視鏡、レントゲン診断が確立されている。(別紙)

●治 療

潰瘍性大腸炎 サラゾピリン、ステロイドを中心とした薬物療法が First choice であるが、難治例については手術療法をすみやかに行う。術式については、肛門機能を温存する術式が確立されている。ステロイド無効例に免疫抑制剤が使用される場合もある。

Crohn 病 根治治療はない。内科的にも外科的にも姑息的治療が現状では行われている。

●炎症性腸疾患患者の口腔粘膜疾患  

炎症性腸疾患では口腔内に結節性紅斑を生じ、ベーチェット状態に属する。 Crohn 病では約20%に口腔内アフタが見られ、その他慢性の潰瘍、頬粘膜の cobblestone 様肥厚、口唇の腫脹を生じる。また潰瘍性大腸炎では点状、壊死状のアフタのほか肉芽腫様病変をきたすことがある。治療は、再発性アフタに準じ対症療法(抗炎症作用を有するステロイド軟膏、患部被覆保護作用のある貼付錠剤、局所保清、刺激除去)が行われる。

●炎症性腸疾患患者の歯科治療 

@ストレス負荷時に症状が増悪する場合があるため、まず歯科治療、抜歯に対する恐怖心を取り除く努力をしなければならない。
A栄養吸収が十分にできないため、体力の消耗がみられ、観血処置の侵襲に対する抵抗力の減弱から治療時に不快症状を起こしやすい。また、抜歯窩の治癒不全を起こしやすい。内科主治医との相談のうえ、症状の改善を待ってから治療することが望ましい。
Bステロイド、免疫抑制剤など投薬内容について確認し、他剤投与の際にその影響を考慮する(e.g.,エリスロマイシンとシクロスポリンの相互作用)。また易感染性に注意する。
C抗生物質、非ステロイド性消炎鎮痛剤は、ほとんどすべてのものに消化器の副作用が認められ、症状増悪の危険が高いので、投薬は慎重に行わなければならない。可能な限り使用しないようにし、必要なら主治医と相談する。

 

<参考文献>

消化器病学 第 4 版                  医学書院

診断と治療 Vol.85 No.6 大腸疾患をめぐる最新情報   診断と治療社

内科治療ガイド                    文光堂

口腔粘膜疾患アトラス                 文光堂

有病者の歯科治療/歯界展望別冊             医歯薬出版                         


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